調整のススメ

1.調整していますか?
プロジェクトマネージャに最も必要な能力の一つとして「調整力」があります。プロジェクトマネージャの調整力が高いほどメンバーの集団凝集性が高まり、困難なプロジェクトでも前に進めることができます。逆に調整力が低ければ、各チームで全くバラバラの方向に走り始めてしまいプロジェクトが前に進みません。何よりプロジェクトメンバーのエンゲージメントが下がります。プロジェクトマネージャにとって調整力は、新技術への造詣や対象業界への知識よりも必要だと思います。
2.調整力を上げよう
では調整力を上げるために必要なことを検討してみましょう。
- ① 目的は明確に整理されていますか?
- 調整をする目的は何でしょうか。その調整が発生した理由を明確に説明できるでしょうか。また調整後の利益は、調整を実施しないと発生する不利益に見合っていますか?人を動かすには理由が必要で、それは正義であるほど説得力が高くなります。誰かの損得勘定ではなくプロジェクト成功に近づく目的に当てはまっているかを考えましょう。
- ② 目標を立てておきましょう
- あなたが絶対に譲れない目標を整理しておきましょう。調整において毎回あなたの目的が達せられる(即ち全ての目標を達成できる)ことはありません。この調整で絶対に達したい項目と、この調整で達せなくてもリカバリできる項目を区別しておきましょう。なお私は調整において、この項目を一番大事にしています。
- ③ 戦略を立てましょう
- 上質なコミュニケーションには戦略が必要です。PMBOK第6版のプロジェクト・コミュニケーション・マネジメントの項にも「コミュニケーションがステークホルダーにとって効果的であることを確実にするための戦略を開発する」と記載があります。調整先は上長でしょうか、部下でしょうか。社内でしょうか、社外でしょうか。また圧を用いて強く出た方が良いでしょうか、謙る方が良いでしょうか。コミュニケーションは同期/対面(会話/会議)を好みますか、非同期/非対面(メール/チャットなど)を好みますか。相手によって態度を変えることは悪だとされていますが、これはビジネスです、堂々と態度を変えましょう。
長々と書きましたが例をあげると簡易であることが分かります。マスタースケジュールに変更が発生し、ある機能開発を前倒すケースを考えてみましょう。
まず①目的を整理しましょう。なぜ機能開発を前倒しするのでしょうか。きっと後続のシステムテストに影響が発生するのでしょう。そしてそのシステムテストは関係者が多く、スケジュール変更はとても困難な(実質不可能な)作業になることが判明したのでしょう。システムテストを遅延させることで発生する本番稼働リスクを取り除くことが目的となります。
次に②目標を立てます。まず予定していた設計と開発、テストを全て前倒して完了することを検討します。本当に不可能でしょうか?コスト追加(クラッシング)も検討しましょう。不可能な場合、死守すべき点を考えましょう。今回はシステムテストで利用する機能の完成を死守したく思いますね。そうであれば設計書や前段テストエビデンスの作成を簡略化することを譲歩しましょう。システムテストで利用する機能のみ完成させ、数個のバリデーションチェック機能を省くことも検討してください。システムテストが長期に渡る場合、後続のリグレッションテストで品質を担保するという方法も取り得ます。
さぁ③戦略を立てましょう。調整先は、責任感は高いが少し神経質なチームリードで、常に「時間が無い」と呟いておりマインドはややネガティブです。そんな彼には同期/対面型のコミュニケーションを採用しましょう。即ち会話です。冒頭に「10分欲しい」と伝え、目の前に10分間のカウントダウンが始まったタイマーを置きましょう。もちろん10分で議論が収まるように論点は整理しておきます。
スケジュール変更という大きな課題に対して、決して思い付きで予定時間を1時間に設定した会議案内メールをチームリーダー全員に送る様な愚行をしてはいけません。相手の時間を奪うのですからしっかりと準備した上で望みましょう。
3.調整のコツ
私が良く用いる調整のコツをご紹介します。
- ① 時間を計り刻む
- 同期型コミュニケーション、即ち会議や会話、電話などを採用する際は、先ず使用する時間を宣言しましょう。宣言した時間を超過しない限りあなたの信用は損なわれません。長時間(30分以上)の会議では時間を刻むことも有効です。「あと10分」「あと5分」と伝えることで、ダラダラと会議が伸びることを防げます。会議は予定時間の8~9割で完了することを目標とし、終了時刻を過ぎたら途中でも打ち切りましょう。30分話しても結論が出ないのであれば3時間話しても結論は出ません。
- ② ハードネゴシエーションは方言で
- 地方出身者のみ利用できる手段ですが、方言を利用することで親密度を上げる事ができます(私は関西出身のため関西弁を利用します)。契約内容を伝える会議やプロジェクト報告会などでは標準語を用いますが、顧客に無理を通したい場合などは、方言を利用することで場の空気が柔らかくなり、主張が通ることが多くありました。なお立ち話など略式コミュニケーションの場合は更に効果的です。ただ方言を毛嫌いする人もいるのでご注意ください
- ③ 揉めたら相手の上長へ
- 調整が上手くいかない場合は他者を介入させてみましょう。それが相手の上長だとスムーズになる場合があります。相手も会社員、組織人です。上長に従わざるを得ないのが社会のルール。ただこれも「上司に言い付けられた」と拗ねてしまう人も稀にいますのでご注意ください。
- ④ 理論武装のために想定問答を
- 調整時に相手の指摘事項に回答できなかった場合、格段に調整が難しくなります。防ぐため想定問答をすることで理論武装をしておきましょう。一番大事なのはその調整が「やらなくてはならない」のか「やった方が良いのか」の見極めです。例えば前述した「マスタースケジュールに変更が発生し、ある機能開発を前倒すケース」の場合、私が機能担当者なら必ずマスタースケジュールを変更する理由自体を質問します。理由が必須でなければ、マスタースケジュール変更を取り消す様、プロジェクトマネージャに調整を依頼するからです。
- ⑤ ツールを最大限利用する
- プロジェクト管理を支援するツールは数多く有ります。有効なツールがあればどんどん取り入れていきましょう。例えば、あなたが調整する際に説明資料を用意することもあるかと思います。それは今回用に作成したパワーポイントのプレゼン資料より、過去より存在し互いに共有されている資料(例えば議事録やWBSなど)を利用した方が説得力を高くすることができます。なおワード/エクセルなどファイルベースだと、どの資料が最新版か混乱するのでWEBベースでバージョン管理が発生しないツールを推奨します。
4.調整とは不平等の再分配である
調整する上で必要なことは、特定の利益ばかり求めないことです。逆です。もともとプロジェクトには不平等が多発しており、その不平等の量が均等になる様に再分配することを留意ください。言葉は柔らかいが自分や自分に近しい人間にメリットを確保したがるマネージャよりも、圧が有り言葉は厳しくても不平等を均等に再分配してくれるマネージャに人は付いてくるものです。もし調整が滞っている場合、相手と自分で不平等が均等かを意識してみることをお勧めします。