作業計画(スケジュール)の立て方

1. はじめに
みなさん、スケジュールはどのように立てますか?と聞かれたときに明快に答えることが出来るでしょうか。論理的にきっちり説明できる方は意外と少ないのではないかと思います。1つずつ書き出してみると当たり前のことでも、体系立てて整理しておくと、より深く理解することが可能です。合わせてスケジュールを作成するときの要点を押さえておくことで個人スケジュール、チームやプロジェクトのスケジュールが今より1つ高いレベルで作成可能となります。
2. スケジュール作成の概要
最初にスケジュールの構成要素を確認していきましょう。スケジュールは次の5つの要素で作られています。
- ・マイルストーン
- ・縦軸(作業項目)
- ・横軸(作業に掛かる工数)
- ・作業間とマイルストーンの依存
- ・担当者
続いて、それらを使ってどのようにスケジュールを作成していくのか説明します。
- (ア) マイルストーン
- スケジュールを作成するときは、前提として決まっている全体期間とマイルストーンを先に記載します。もしあなたがスケジュール作成を依頼する側の立場である場合には、逆に全体の期間とマイルストーンを作成依頼者に伝える必要があります。
- (イ) 縦軸(作業項目)
- これから取り組む作業にどのようなものがあるのか、縦軸に記載していきます。まず大きな作業の塊を考えてブロック単位で記載していきます。その後、各ブロックの内容について作業単位に分解します。1週間以内で完了する1つの作業になる程度まで分解していきましょう。作業項目を列挙するときのポイントは、直近の作業は1つも漏れることなく全て記載することです。後続の作業は、前段の作業の状況によって変更になることがあるため、最小単位まで分解する必要はありませんが、次の(ウ)で作業工数が概算見積できるところまでは記載しましょう。
- (ウ) 横軸(作業に掛かる工数)
- 縦(作業項目)に記載した各作業に掛かる工数を見積もっていきます。もし1週間を超える作業が存在している場合には、(イ)に戻って作業を分解します。見積もった工数から期間に落とすときのポイントは各作業単位の中にバッファは持たないことです。バッファは全体に対してまとめて保持しておくようにします。バッファを持たない工数とは、その作業が「50%の確率で終わる」工数として見積もることです。何もルールを決めずに見積すると人は80%の確率で終わる工数を設定してしまいます。
- (エ) 作業間とマイルストーンとの依存
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各作業の依存関係を示していきます。ある作業が完了してからでないと着手できない作業、というものは実際のプロジェクトでは多く出てきます。依存を考慮して作業を行う時期を調整していきます。作業間の依存を整理することは非常に大切な行いですが、この依存を表す線を全て横軸に追記していくと多くの線が追記されることになりスケジュールそのものが見えにくくなるため、クリティカルパスの把握までとすることが多いです。
合わせてマイルストーンと作業の依存も確認します。決められたマイルストーンまでに完了させるべき作業が終わっている予定になっているか確認しましょう。
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- (オ) 担当者
- 各作業を行う担当者を決定します。個人スケジュールの場合、当然ですが担当は全て自分になります。チームやプロジェクトのスケジュールである場合には、担当者のスキルや経験を加味して設定する必要があります。担当者を決定したら、その担当者の作業だけを抽出して、多くの作業が並行で実施することになっていないか確認します。
依存関係や担当者を割り振る際に作業を入れ替えたことにより、他の箇所の依存関係に矛盾が発生していないか、マイルストーンを超えている作業が存在していないか、など確認する必要があります。上記全ての作業が完了したら再度(ア)から順番に再確認してみましょう。
3. スケジュール遅延対策
多くのみなさんは、ここまでのスケジュール作成について、当たり前のことしか書いていないように思うかもしれません。しかしどうでしょうか。当たり前と思っているその手順でスケジュールを作成しても多くのプロジェクトではスケジュールは遅延していきます。
プロジェクト管理を行っていく上でのスケジュール遅延に対する対応については、別の場で触れるとして、今回ターゲットとしているスケジュール作成する上で、考慮すべき遅延対策について考えていきたいと思います。
- (ア) 漏れなく作業を抽出せよ
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前述したスケジュール作成の手順の中で、最も時間を使うべきなのは、縦軸(作業項目)の抽出です。特に直近の作業については1つも漏れることなく、全ての作業を記載することに集中しましょう。スケジュール作成時において、スケジュール遅延に一番影響を与えるのは、作業項目が漏れることです。各作業の工数・期間が多少ズレてしまうことは、実はそこまで大きな影響にはならないのです。
それはなぜでしょうか?
ここまで読んで来られた方は、もうお分かりですね。縦軸が全て洗い出されていれば、既に依存関係や担当者が割り当てられているため、修正や調整箇所は限定的となるためです。ところが作業項目そのものが抜けていた場合にはどうでしょうか。他の作業との依存関係の洗い直し、作業を差し込んだことによる他の作業やマイルストーンとの整合性、担当者の新規割り当て、など影響箇所が多岐に渡ります。漏れなく作業を抽出するには、実際にその作業を行うことを具体的に想像することが重要になります。
例えば、電子レンジでご飯を温めるときのことを考えてみましょう。
具体的に想像しないと「電子レンジでご飯を温める」の1行だけになってしまいます。でも、あなたの目の前に冷えたご飯があって、今からレンジで温めるぞ、というときを想像してみてください。
器に移し替える必要はあるか、ラップを掛ける必要はあるか、いきなり長い時間を設定すると温めすぎてしまうので、少し短めに温めて温度を見てから、再度もう少し温めようか、など思い浮かぶと思います。さらにラップは家にあったかな、無いであれば買いに行くのか、代用するものを探すのか、という作業も必要になってきますね。なんとなく作業を定義するのではなく、目をつぶって今からその作業をやるぞ、ということを具体的に想像しましょう。
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- (イ) バッファはまとめて持て
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横軸(作業に掛かる工数)の中でも記載しましたが、バッファは個別の作業の中に入れないようにします。与えられた時間を消費するまで仕事は膨張する、というパーキンソンの法則により、個別の中に入れ込んだバッファは無駄に消費されて終わってしまいます。もしバッファを使わずに早く作業が終わった場合でも、多くの場合、終わったことは申告されません。それは早く終わったことを告げれば遅れている他の作業を依頼されたり、次回同じ作業を行うときには今回早く終わった時間が標準として使われて作業時間を短くされてしまうかもしれない、と考えるためです。
バッファ無しで作業工数を見積もることは、個人スケジュール作成時には、自分でバッファを取り除いた値を設定すれば良いのでさほど難しいことではありませんが、プロジェクト全体での作成となると考慮すべき事項が出てきます。一部のスケジュールを他者に作成してもらう場面が出てくるためです。バッファを個別の作業に入れないように依頼するだけでは、必ずどこかにバッファを隠してスケジュールが作成されていきます。バッファを使うことは悪ではなく、作業時間の揺れ幅に応じてうまく消化していくもの、ということをルールとして提示し、またバッファをオープンにすることが重要です。バッファをオープンにするとみんながそれを見込んで食い潰していってしまう、という理由で隠して運営しているプロジェクトをよく見ますが、そうすると必ず個々の作業の中にバッファが潜り込み結果としてスケジュールは間延びして全体として遅延していきます。
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- (ウ) 有識者による確認、類似プロジェクトとの比較
- 漏れなく作業を抽出する観点でも、各作業の工数・期間の設定においても、有識者による確認は必須です。同じ作業でも経験した人によって工数が異なることはよくあることです。複数の経験者や有識者による意見は重要なものとなってきます。また同じような作業や同じようなプロジェクトでのスケジュールや実績作業を入手してそれらと比較することも有効な手段となります。自分たちだけで作成したスケジュールは遅延する、と肝に銘じて色々な観点からレビュ・確認を行うようにしましょう。
4. おわりに
冒頭で、スケジュールはどのように立てますか?と聞かれたときに明快に答えることが出来ますか?と問いかけました。紙面の関係もあり、もちろんここに記載したことが全てではありませんが重要なことは、なんとなくスケジュールを立てるのではなく、スケジュールはこうやって立てるべし、ということを自分の中で一度整理し意識しながらそれに沿って作成することだと思います。それによって新たな気付きがあった場合には、それを加えていくことで少しずつレベルが上がり、精度の高いスケジュールが作成できるようになっていきます。