ウィズコロナ時代のプロジェクト管理

1. はじめに
2020年はビジネス環境を価値観から一変させた、歴史に刻まれる1年となる、と多くの人が予想していることでしょう。日本では、2020年1月に検知された国内第一例から、外出自粛要請、その後の第2波、Go ToトラベルやGo To Eatといった経済振興策の最中、新たに第3波が渦巻き、感染者数の急増がまた懸念されています。
毎日通勤電車に揺られてオフィスに出勤する、東京や大阪といった都市部で当たり前だった光景も影を潜め、オフィスに出勤せずに自宅等で作業する「テレワーク」というスタイルもあっという間に一般的になりました。
その根源、新型コロナウィルス(COVID19)のワクチン開発は欧米で先行し、かつてないスピードで承認に向けた臨床試験が行われている、と日々ニュースでも報じられています。当然、抜本的な対策が見いだせない現在でも経済は止められませんので、誰しも防疫を意識しながらも、日々課された仕事を全うせざるを得ません。各企業で進められているプロジェクトについても同様です。今回は、そんな「ウィズコロナ」時代のプロジェクト管理について、触れていきます。
2. プロジェクトのバーチャル化
プロジェクト管理の世界は、PMBOK(Project Management Body of Knowledge)という世界標準があり、世の中のプロジェクトの多くは、この標準に準拠もしくは、それをベースとした方法論を用いています。皆さんのプロジェクトでも何らかの形で参考にされているものと思います。
PMBOKには、プロジェクト管理に関する思想と手法について定義されていますが、その定義は、プロジェクトという「物理的な場所がそこにあること」を大前提としています。少しかみ砕くと、オフィスに「プロジェクトルーム」が実際に存在し、プロジェクトメンバはその場所で、WBS(Work Breakdown Structure)に定められた日々のタスクをこなし、プロジェクトマネージャは、その進捗や課題を見て確認する、といったワークスタイルを想定しています。
もちろん、ロケーションが離れた複数拠点で進めるプロジェクトもありますが、それぞれの拠点が他拠点と関係性を持たず独立して進めるケースは限定的です(その場合はそれぞれが独立したプロジェクトと位置付けられます)。多くがいずれかの場所にプロジェクトを統括する本部を置き、体制上も、その本部をトップに置いてガバナンスを利かせることでしょう。
さて、ウィズコロナの時代、その前提はどうなるでしょうか。「100%テレワーク」というプロジェクト環境を想像してみると一目瞭然です。プロジェクトルームが存在しない、もしくはプロジェクトルームがあっても、もぬけの殻となっていることでしょう。これまでのプロジェクトとは根本的に異なり、リアルなプロジェクトルームが機能していない中でもプロジェクトを進めるためには、すべてのプロジェクト管理を、Web会議やSNS、メール、電話をはじめとするコラボレーションツールを用いて、オンラインで行う必要があります。どんなに膝詰めでの議論を求めても、対面での会議が禁止されていれば、それは叶いません。
これまで、プロジェクトマネージャは、PCやノート、ペンを持ってプロジェクトルームを回ると、メンバからプロジェクトの進捗や課題を直接ヒアリングすることができました。メンバの顔色から稼働状況やリスクを検知することもできたことでしょう。それらがまったくできない、もしくはかなり制限され、100%デジタル化されたプロジェクトにおいて、プロジェクトマネージャは、どのように日々のプロジェクト管理を見直すべきでしょうか。
3. コラボレーションプラットフォームの重要性
実は、本質はあまり変わらない、という話をします。プロジェクト管理の基本は、計画と実行の統制です。そこには情報の行き来があり、プロジェクトマネージャからチームリーダ、メンバへの指示と、各チームのメンバからリーダ、プロジェクトマネージャへの報告により成り立ちます。100%デジタル化され、プロジェクトルームがなくても同様であり、その時特に重要となるのが「コラボレーション」です。
ここで言う「コラボレーション」とは、プロジェクトメンバ間での情報の行き来を行うためのプラットフォームです。「バーチャルプロジェクトルーム」とでも呼びましょう。プロジェクトにはリアル、バーチャル関わらず、プロジェクトの場所が不可欠であり、対面で協業できない環境下では、個々人が持つ情報を共有していく手段が特に重要となってきます。
その際にプロジェクト管理に従事する人が意識すべきポイントとして、5点挙げたいと思います。
- ① 口頭で済ませず、何らか形にして共有する
- ② 双方から同じ情報を参照する
- ③ 必要十分な共有範囲を意識する
- ④ 常に最新の情報を共有する
- ⑤ (テーマによっては)共有手段を見直す
上記に挙げた、プロジェクト管理におけるコラボレーションのポイントを、一つずつ説明します。
- ① 口頭で済ませず、何らか形にして共有する
- プロジェクトでの指示や報告は、必ず何らかのクラウドツールやMicrosoft PowerPointやMicrosoft Excel等を使用して共有しましょう。手書きの絵でもメモでも構いません。プロジェクト未経験の新人だけでなく、プロジェクト経験豊富なマネージャにもありがちですが、テレワーク時に口頭で話を済ませるのは相手の理解度が見えず、最悪の場合、後続タスクをミスリードしかねません。プロジェクト管理上、非常にリスクとなるので、多少手間だと思っても徹底しましょう。
- ② 双方から同じ情報を参照する
- 最近では、クラウドサービスベンダが提供する共有ドライブで同じファイルを参照しながら仕事ができるようになりました。同時編集の機能を持つツールもありますね。それらを積極的に活用し、関係者が常に同じ情報を見ている状態を維持しましょう。プロジェクト開始時のコミュニケーション管理の定義に関しても、コラボレーションを実現するプラットフォームやルールを整えることが、ウィズコロナ以前と比べて格段に重要になっています。
- ③ 必要十分な共有範囲を意識する
- コラボレーションプラットフォームが整備されると、プロジェクトメンバはセキュリティの範囲内でどんな情報も参照可能となるため、却って情報過多となり、情報管理が煩雑となることがあります。情報の改廃はオープンに進めつつも、意識的に共有範囲を必要十分な相手としていくようにしましょう。
- ④ 常に最新の情報を共有する
- 情報へのアクセシビリティが増すほど、古い情報にリーチしてその内容をインプットにタスクを進める際に不用意なミスを誘発するリスクが上がります。常に最新の情報を適切なタイミングで共有していく、もしくは改廃タイミングを積極的に共有するようにしましょう。
- ⑤ (テーマによっては)共有手段を見直す
- テレワーク環境下において、情報共有手段は、原則としてオンラインとなりますが、ブレインストーミング等、議論の着地を決めずに行う双方向性の高い仕事は、どうしてもオンラインでのコラボレーションは非効率的で適しません。そのような時には、ウィズコロナの可能な範囲でむしろ積極的に対面でのコラボレーションを図りましょう。近い将来、バーチャルに同様のことができる技術やサービスが普及することを期待しますが、現時点ではまだ難しいと言えます。
4. おわりに
新型コロナウィルスに対するワクチンが開発され、普通の風邪となっていく頃には、また元のリアルなプロジェクトルーム型のプロジェクト管理スタイルが戻ってくるかもしれません。その一方で、今回普及したテレワークがなくなることは最早ないでしょう。プロジェクトマネージャは、そのようなテレワーク環境の特性を踏まえた、プロジェクト管理手法も身に付け、コラボレーションツールを駆使しながら、日々の管理を実践していく必要がある、そのように考えています。