企業はなぜプロジェクトを興すのか

1. はじめに
今このサイトをご覧になっているみなさんは、何かしらの形で「プロジェクトマネジメント」という言葉を耳にしたことがあると思います。もしくは、日頃から仕事や仕事以外の様々な場面で、プロジェクト活動に奔走しているかもしれません。「プロジェクト」を「マネージ」する、何となく使っているその「プロジェクト」、今回はその言葉の意味について、振り返ってみたい、と思います。日々の仕事に忙殺されていると、なかなかそう呑気におさらいする時間もないかと思いますが、少し立ち止まって考えてみると「プロジェクト」の本質が見えてきます。
2. プロジェクトとは
最初に、プロジェクトの定義まで遡ってみます。プロジェクトとは一体何でしょうか。Wikipediaによると、「プロジェクト」の語源は、ラテン語の 「PRO+JECT」 であり、「前方(未来)に向かって投げかけること」、とされています。一言でいうと、「目標に向けた取り組み」というところかと思いますが、これだと何でもプロジェクトと呼べてしまいそうなので、もう少し見ていきましょう。
プロジェクトマネジメントの標準策定、PMPⓇ(Project Management Professional)をはじめとする資格認定を行っている非営利の国際団体、プロジェクトマネジメント協会(Project Management Institute)の定義では、「プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務」とあります。ここでピンと来る方、さすがです。プロジェクトとは、以下3つの要素を併せ持つ活動である、と言えます。
- (1) 独自のプロダクト、サービス、所産: 達成すべき目標(ゴール)
- (2) 創造するために実施する業務: 目標(ゴール)に向けたプロセス
- (3) 有期性: 開始日と終了日
つまり、何らかの意思を持って立てられた独自のゴールを達成するために、期間を決めて行う業務プロセス、それがプロジェクトです。
一方、企業や組織が日々行っている定常業務は、プロジェクトには当たりません。プロジェクトは有期性を持つのに対し、定常業務は継続性、反復性を持つルーティンワークとなります。企業や組織は、それら2種類の業務を組み合わせ、事業を行っています。
3. プロジェクトとタスクの違い
プロジェクトの3要素が分かったところで、ひとつ疑問に思う方がいるかもしれません。そう、もうひとつよく使っている「タスク」という言葉。こちらもゴール(アウトプットと呼ぶかもしれません)があり、開始日と終了日を持つプロセスです。さて、何が違うのでしょうか。
タスクとは、もともとはコンピューター用語として使われていた最小の処理単位のことです。ここからビジネス用語として派生し、作業や仕事の単位として使われています。プロジェクトはタスクの上位概念となり、タスクを重ねた結果、プロジェクトで達成すべきゴールを実現することになります。実際には、プロジェクトの計画を立て、その計画をブレイクダウンして、タスクを定義していくことになります。WBS(ワークブレイクダウンストラクチャ)と言いますが、こちらは別の場で改めて触れたいと思います。
4. 企業はなぜプロジェクト活動を行うのか
さて、プロジェクトの定義を振り返ったところで、プロジェクトに何らかの形で携わったことのある方は、プロジェクトなんてわざわざやらなきゃいいのに、と思ったことはありませんか?特に普段決められた仕事をコツコツとこなしていればよかったのに、突然辞令が出て、プロジェクトチームにアサイン。そんな経験のある方もいるかと思います。各組織からの寄せ集めで結果が出るかも分からない、なのに何故、企業はコストをかけてでもプロジェクトを起案し、実行に移すのでしょうか。
プロジェクトには、独自の目標を達成する取り組み、という特性から、何らかの狙い(=目的)を持って立ち上げられます。その際に重要なのは、社員への動機付けです。企業がわざわざプロジェクトを興す最大の理由は「戦略に対する社員への動機付け」、と言っても過言ではありません。プロジェクトには大きく3パターンあり、それぞれ触れていきます。
- (1) 新規事業や組織を立ち上げる
- こちらは一番分かりやすいケースだと思います。新たな事業や組織を立ち上げる時、既存の事業や組織の枠組みにはまったく収まらないアクションを次々に検討し、打ち出さなくてはなりません。そのため、新たな事業の核となるメンバーやその知見者などを集め、プロジェクト体制を組成します。この場合、多くが企業戦略の方向性を体現する取り組みであるため、アサインされたメンバーの動機付けも行い易く、投資対効果まで見えていれば経営層の合意形成も進み、概ねスムーズに立ち上がります。
- (2) 既存事業や組織を強化する
- こちらは、定常業務の派生でプロジェクト化するケースです。例えば毎年定期採用を行なっている企業で、事業拡大のため期間限定で大量採用に踏み切る、このような時もプロジェクトの枠組みを使います。メンバーは定常業務に携わる社員が中心となりますが、取り組み内容によってはスキルセットが合わないなどの理由から別組織からメンバーを追加する場合もあります。新規事業、新規組織を立ち上げるプロジェクト同様、メンバーの動機付けを行い易いケースです。
- (3) 既存事業や組織を変える
- 一方、こちらは少し難易度が上がります。一般に、業務改革や、効率化、コスト削減を掲げるケースがこちらにあたります。企業によってその理由は様々ですが、既存の事業や組織を見直す、もしくは削減、廃止する時に、プロジェクト化して取り組むケースが多くあります。
ここで何故、既存組織の定常業務内で取り組まないのか、というと、その枠で収めるにはメンバーの動機付けが弱すぎるからです。「今までと同じでいい。変えないほうが効率よく仕事ができる。」という反発も沢山起こります。それら社員の声を適切にコントロールしながら、企業が達成したい変革を実現するには、同じゴールを見据えたメンバーが一体となった取り組みとしていくことが不可欠であり、そのためにプロジェクトという枠組みを活用し、外部のコンサルタントを入れることもよく見られます。このように、プロジェクトのゴールの上位に、「戦略に対する社員への動機付け」という狙いがある、ということを再認識してみましょう。すると、現在プロジェクトに携わっている皆さんの日々のタスクにも何らかの示唆を与えるのでは、思います。
5. プロジェクトの副次効果
これまで、プロジェクトにアサインされるメンバーは将来の幹部候補やポテンシャルの高い人が選抜される傾向がある、とされてきました。但し、昨今は人不足により質量共に企業内の人材が限られることから、むしろ現業を抱えた普通の人をやっとでアサインする、というケースが増えてきました。そんな中でも、プロジェクト活動が及ぼす人材育成効果は軽視できません。プロジェクトによっては30〜40年に1度、というものもあり、その期間にプロジェクト内で集中的に鍛えられたメンバーは、プロジェクトが終わる頃には、その企業には欠かせない人財に生まれ変わっています。事業推進の貴重な戦力となってくれることでしょう。
また、そのようなプロジェクトが一度成功すると、事例として社外に出すこともでき、マーケットに訴求するプロモーションコンテンツともなり得ます。それを契機に新たに業務提携や新規市場開拓が進むこともあるでしょう。企業にとってはプロジェクトを成功させることで、対外的なプレゼンスを高めることにも繋がるのです。
6. おわりに
冒頭で、プロジェクトとは、独自の目標を達成する取り組み、と述べました。しかしながら、プロジェクトは、その定義に留まらず、企業活動を行う上で、さまざまなメリットがあり、だからこそ企業はコストをかけ、リスクを取ってでもプロジェクトを興すのだ、と思います。
プロジェクトに携わっているみなさんも、普段そこまでは考えないと思います。私もそうです。しかしながら、時折こんな振り返りをしてみると、それまで見えてこなかった何かが見えてくるかもしれません。